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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)242号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告の主張は、以下に説示するとおり、理由がないものというべきである。

前示本件考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)を総合すれば、本件考案は、主として靭性の少ない合成樹脂製の部材に使用するタツピングねじに関するものであるところ、従来のタツピングねじは、タツピングねじの性能を示すねじ込みトルクやストリツピングトルク及び保持力等をすべて均衡に満足するものがないために合成樹脂製の部材に対し使用するときは下孔が割れやすく、また、保持力が小さいために螺入後に下孔に形成された雌ねじが破断して安定性に欠けるという欠点があり、本件考案はこのような欠点のないタツピングねじを得ることを課題ないし目的とすること、この課題を解決するため、その要旨記載のとおり(本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)の構成、すなわち、(一)ねじ山角度を40°以上50°以下とし、かつ、(二)ねじ部にそのリード角に対して直角方向に先端から基方部にわたる適当数の条溝を設けることを特徴とする構成を採用し、所期の目的を達したものであつて、本件考案の奏する作用効果として、考案の詳細な説明の項には、「合成樹脂製の部材に設けられる下孔に螺挿して行けば、軸部1に形成されているねじ部2(「ねじ部1」とあるのは誤記と認められる。)はそのねじ山角度が40°以上50°以下であつて通常のねじに比較して小さいにも拘らず該ねじ部2のリード角に対して直角方向に先端から基方部にわたつて適当数の条溝3が設けられているため少さなねじ込トルクで容易に螺挿できて作業性も良く、しかもねじ山角度が40°以上50°以下という小さいものであるから下孔の半径方向にかかる力は小さく、従つて合成樹脂製の部材の下孔に割れの生ずることが殆んどなく、大きな締付トルクになるまで螺挿できるうえに保持力も大きいために螺入後は安定性に優れたものとなり、また下孔が有底の場合には条溝3が下孔中に残存される切削屑の逃げ場となる利点もある。」旨(本件公報第一頁第二欄第四行ないし第一九行)の記載があることが認められ、右認定の事実によると、本件考案の奏する作用効果とされるうち、<1>「小さなねじ込トルクで容易に螺挿できて作業性も良い」という効果は前記(一)及び(二)の構成による効果であり、<2>「下孔の半径方向にかかる力は小さく、従つて合成樹脂製の部材の下孔に割れの生ずることが殆んどなく、大きな締付トルクになるまで螺挿できるうえに保持力も大きいために螺入後は安定性に優れたものとなる」との効果は、前記(一)の構成の効果であり、<3>「下孔が有底の場合には条溝3が下孔中に残存される切削屑の逃げ場となる利点」があるとの効果は、前記(二)の構成の効果と認めるのが相当である。

他方、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの記載があること、また、本件考案と第一引用例記載の考案との間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点が存することは、原告の認めるところであり、これによると、本件考案と第一引用例記載の考案とは本件考案の前記(一)の構成の点で一致し、両者の相違点は、第一引用例記載の考案が本件考案の前記(二)の構成、すなわち、「ねじ部にそのリード角に対して直角方向に先端から基方部にわたる適当数の条溝を設ける」構成を欠く点にあるが、前示第二引用例の記載内容に徴すると、第二引用例には右(二)の構成を備えたタツピングねじが記載されているから、本件考案は本件審決認定のとおり第一引用例記載の考案に係るタツピングねじにおいて、そのねじ部に第二引用例記載のタツピングねじのねじ山に設けられた条溝の構成を適用したものに相当するものというべきである。

ところで、原告は、本件考案は前記(一)及び(二)の構成の相乗効果ともいうべき顕著な作用効果を奏する旨主張するから、この点について検討するに、本件考案の作用効果は前認定のとおりであるところ、前掲甲第二号証中の図面第3図ないし第5図並びに考案の詳細な説明の項の右図面についての説明によると、右図面に示された数値は、従来のタツピングねじ(先端部に90°の切欠を備えたタツピングねじ(イ)と軸部の断面形状がほぼ三角形のタツピングねじ(ロ))と本件考案のタツピングねじについて、ねじ込みトルク、ストリツピングトルク及び保持力のそれぞれについて行つた比較実験の結果を表示するものであるが、本来、本件考案の右(一)及び(二)の構成の相乗効果の有無をみるためには、本件考案に係るねじと右(一)の構成を有するねじとの比較及び従来公知のねじに右(二)の構成を設けたねじとの比較等をしなければ明白といい難いところ、右の比較実験は、そのようなねじとの比較実験を行つたものではないから、右実験結果は原告主張の相乗効果を示すものとは認められない。のみならず、前認定のとおり、本件考案の作用効果のうち、本件考案の前記(一)及び(二)の構成に基づく<1>の作用効果を示す第3図によるも、本件考案のタツピングねじとされる(ハ)は、従来のタツピングねじ(イ)及び(ロ)と比べ、ねじ込みトルクがほぼ等しいか、又は大きい値を示しており決してそのねじ込みトルクが常に小さいものとはいい得ず、右の作用効果は、前掲甲第二号証に記載のとおり「本考案のタツピングねじはねじ込トルクが従来品に比して僅かに大きいだけで螺入時の作業性のうえで殆んど問題がない」(本件公報第三欄第八行ないし第一一行)とされる程度の効果にすぎないものと認められ、したがつて、この点の作用効果は、従来品の性能に比べ格別なものとは到底認めることができない。そして、本件考案の前認定の作用効果のうち、前記<2>の効果は本件考案の前記(一)の構成に、また、前記<3>の効果は本件考案の前記(二)の構成による効果であり、右(一)の構成は第一引用例に、右(二)の構成は第二引用例に開示されていること前認定のとおりであるから、結局、本件考案の作用効果は第一引用例及び第二引用例記載の考案の奏する効果以上に出るものとは認めることはできず、したがつて、原告の叙上主張は採用することができない。この点に関し、原告は、甲第五号証の一ないし六を挙示するところ、成立に争いのない甲第五号証の一ないし六によれば、右実験は、(ⅰ)ねじ山角45°条溝数四本のタツピングねじ(本件考案に係るタツピングねじで商品名プラスルツト)、(ⅱ)ねじ山角60°条溝四本のタツピングねじ、(ⅲ)ねじ山角45°条溝なしのタツピングねじ及び(ⅳ)ねじ山角60°条溝なしのタツピングねじの四種を用いて五種類の穴があけられたABS樹脂の被締結材(目的物)にねじ締結を行い、右各タツピングねじについて五種類の穴ごとのねじ込みトルク、ストリツピングトルク及び保持力の測定を行つたものであるが、右の実験に用いられた本件考案に係るタツピングねじ(商品名プラスルツト)は、本件考案の構成のもののうち、ねじ山角及び条溝についてねじ山角45°条溝の数四本なる限定を加えて特定された一種類ものであり、また、被締結体についても、合成樹脂材の中からただ一種のABS樹脂を選んだうえの実験であるから、右の一種類だけの実験結果をもつて、本件考案に係るタツピングねじが共通して有する性能を示すものと認めることは適当とはいい難い。のみならず、右実験結果の実測値をみても、前掲甲五号証の四、六によれば、プラスルツトは、ねじ込みトルクについては、被締結材の穴径が四・二ミリ、四・四ミリの場合に(ⅱ)ねじ山角60°条溝四本のタツピングねじ、(ⅲ)ねじ山角45°条溝なしのタツピングねじ、(ⅳ)ねじ山角60°条溝なしのタツピングねじと比較してその値が小さいこと、及びストリツピングトルクについてもプラスルツトがおおむね高い数値を示している(穴径が三・六ミリの場合を除く。)ことが認められるが、保持力の点では、プラスルツトが、(ⅲ)ねじ山角45°条溝なしのタツピングねじより小さな数値であることが認められ、また、プラスルツトのねじ込みトルクの値が小さいといつてもその程度はわずかであり、更に、プラスルツトが(ⅲ)ねじ山角45°条溝なしのタツピングねじと比較してストリツピングトルクの点で常に高い数値を示すものともいい得ない。以上によると、本件考案の一実施品であるプラスルツトは、ねじ山角45°条溝なしのタツピングねじに比べてねじ込みトルク、ストリツピングトルク及び保持力の点で格段に優れているとはいえず、右三性能のバランスの観点からみても、ねじ山角45°条溝なしのものと比較して保持力において劣つており、ねじ込みトルク及びストリツピングトルクの点で優れてはいるが、その程度はわずかなものにすぎず、本件考案の一実施品であるプラスルツトが特段に右三性能においてバランスがとれているものとも認めることはできず、したがつて、上掲各証拠は本件考案の作用効果の顕著性を立証する資料とするに足りない。また、原告は、第一引用例記載の考案の目的及び作用効果は本件考案のそれと異なるにもかかわらず、本件審決は、本件考案の作用効果のうち、「合成樹脂製の部材の下孔に適用されても割れを生じることがなく、割れが生じないので保持力も大きい」という効果は、第一引用例記載の考案も奏するものとの誤つた認定をした旨主張するところ、この点に関し、原告の挙示する成立に争いのない甲第八号証は、第一引用例記載の考案の願書に添付された明細書及び図面であつて、これによれば、第一引用例記載の考案において、ねじの山形を43°~45°とした直接の目的は、原告指摘のとおりタツピングねじのねじ込みトルクの低下を意図としたものと認められるが、前認定説示のとおり、第一引用例記載のタツピングねじは、本件考案の前記(一)の構成と同一であり、構成が同一である以上、右構成に基づき同一の作用効果(上記原告指摘の本件考案の前記<2>の作用効果を含む。)を奏することは明らかであるから、本件審決のこの点の認定に誤りはなく、したがつて、原告の右主張は採用するに由ない。

叙上認定説示したところによると、本件考案は、第一引用例及び第二引用例記載の考案を組み合わしたものであり、その作用効果においても格別の顕著性はなく、また、右各引用例の組合せ自体にも困難性を認めることができないから、本件考案は右各引用例から極めて容易に考案をすることができたものとみるのを相当とし、したがつて、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。

よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

ねじ山角度を40°以上50°以下として軸部1に形成されるねじ部2にそのリード角に対して直角方向に先端から基方部にわたる適当数の条溝3を設けたことを特徴とするタツピングねじ。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)本件考案

<省略>

別紙図面(二)第一引用例

<省略>

別紙図面(三)第二引用例

<省略>

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